茶園の上の大きな空を、風が通り抜けていく
窓の外を眺めていたら、ふと、旅に出たくなった。思いつきの旅なので、混雑する観光地より、 気軽に出向ける場所に行きたい。日常の近くにあって、いつもとちがう何かに出逢える場所に。
そうしてバッグ片手に訪れたのは、掛川市東山周辺にある茶草場。うねる山々を包み込むように広がる、 壮麗な茶園が美しい。外国人に言わせれば、これぞ「ジャパニーズ・クール!」となるのだろう。 何しろここは、地球上で40ヶ所に満たない、世界農業遺産の一つなのだから。
東山を訪れたらまず、地元民が運営する「東山いっぷく処」に寄るといい。 世界に認められた理由や見どころを、愛嬌のある店員が丁寧に教えてくれる。 店内には、土産物にちょうどいい、名産の茶や新鮮な野菜、手作り品が並ぶ。
ところで、この地に小高くそびえる粟ヶ岳には、京都の大文字送り火を連想させる、 一辺130メートルの巨大な「茶」の一文字が木で描かれている。
聞くと、 百年ほど前地元の茶農家たちによって作られた、お茶とともに生きる決意表明だとか。 その単純な理由で、この大掛かりな作業をやってのけるのだから、 純真で、なんだかチャーミングだ。きっと何事にも真っ直ぐだったのだろう。 そんな人たちの作ったお茶は、おいしかったに違いない。
そして一世紀が過ぎ、今も変わらず東山の人々はお茶を作り続けている。 昔からの農法で、誠実に。ひたむきに。受け継がれてきた「おいしいお茶を作ろう」 という思いは実り、日本一に値する農林水産大臣賞を何度も受賞した。
一連の話を聞きながら、いっぷく処でふるまわれたお茶をいただき、 土産を買った。車でも登れる粟ヶ岳山頂からの眺めは絶景らしい。 ささやかな旅に、すてきな思い出が一つ増えそうだ。
東山周辺には、粟ヶ岳以外にも絶景を眺める「ビューポイント」が3か所点在している。 場所は「東山いっぷく処」で確認することができ、東山地区の貴重な草地性植物を間近に体感できる。
車でも登れる粟ヶ岳の山頂からは、茶園と自然が織りなす美景を眺望できる。山頂には神が降り立ったと云われる 巨石群「磐座」と、県の天然記念物である、大木が生い茂る神秘的な原生林の森が広がっている。