希少な草花と言っても、茶草場に見られる植物は、私たちがよく知る身近な植物が少なくない。 たとえば、茶草場に見られる代表的な希少植物に「秋の七草」がある。 秋の七草は、山上憶良が万葉集で詠んだ「萩の花(ハギ)、尾花(ススキ)、葛花(クズ)、なでしこの花(カワラナデシコ)、女朗花(オミナエシ)、また藤袴(フジバカマ)、朝豹の花(キキョウ)」の歌で知られている。
秋の七草は、古来より日本人に親しまれた奇跡の風物詩であるが、草地環境が減少した現代では、 七草のうち、カワラナデシコやオミナエシ、フジバカマ、キキョウの四種が野生条件では絶滅が心配されるまでに減少している。 ところが、これらの秋の七草のほぼすべてが静岡県の茶草場で見られるのである。
初夏にピンク色の美しい花を咲かせるササユリも、多府県では絶滅が心配されるまでにしている。しかし、静岡県では、茶園の周辺で可憐に咲くササユリをよく見かけることができる。
興味深いことに、秋の七草やササユリ以外にも、リンドウ、ホトトギス、ワレモコウなど、茶草場で見られる植物は、茶の湯の席に活けられる茶花が多く見られる。 「茶草」を活用した茶生産が、失われつつある「茶花」を守り伝えてきたというのも、何となく気の利いた話ではないだろうか。
【茶草場】のある代表的な場所の一つ「掛川市粟ヶ岳(あわがたけ)」中腹では、「カケガワフキバッタ」という虫が存在する。この虫は、決して広くないこの地域だけに生息している。
カケガワフキバッタの良好な生息環境を保つためには、「定期的な草刈りと草の搬出で環境のうつりかわりの進行を抑制すること」が必要といわれている。
自然豊かな茶草場には他にも、空を舞う姿が美しいサシバ(タカ科)などの絶滅危惧種をはじめ、 たくさんの生物が息づいている。
人の手によって維持管理されている草地環境は「半自然草地」と呼ばれている。 人の手が入って、草を刈ることは、一見すると自然を破壊しているようにも見える。しかし実際には、人の手が適度に入った里山環境では、多くの生物種が生息することが知られている。
草を刈らずにおくと、生存競争に強い植物ばかりが生い茂ってしまうので、生息できる植物の種類はかえって少なくなる。 一方、定期的に草を刈り取ることによって、大きな植物が茂ること無く、地面まで日の光が当るので、生存競争にも弱いさまざまな植物が生息をすることができる。 そのため、里山の草地ではさまざまな植物が生息して、豊かな生物多様性を作り上げるのである。